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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)201号 判決 1983年2月25日

原告

東勝彦

ほか四名

被告

主文

一  被告は、原告東勝彦、同東佐二郎、同東義信及び同東正治に対し、各四六万四二一六円を、同東アサノに対し、九二万八四三三円を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その三を原告らの、その余を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告ら代理人は、「(一)被告は、原告東勝彦、同東佐二郎、同東義信及び同東正治に対し、各一一六万〇五三三円及びこれに対する昭和五七年一月二八日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。(二)被告は、原告東アサノに対し、二三二万一〇六六円及びこれに対する昭和五七年一月二八日から右支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。(三)訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を、被告代理人は、「(一)原告らの請求を棄却する。(二)訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者の主張

一  原告ら代理人は、請求の原因として、次のとおり述べた。

1  事故の発生

昭和五五年一月一六日午後三時五五分ころ、大阪府八尾市旭ケ丘四丁目三五番地先の交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)の中央付近において、足踏自転車(以下「被害自転車」という。)を運転して東から西へ向かい進行中の亡東誠(以下「誠」という。)が、折から南から北へ向けて進行してきた大西信治(以下「大西」という。)の運転する自動二輪車(大阪か四四―三九号。以下、「加害車」という。)に跳ね飛ばされ、頭部外傷等の傷害により同月一七日死亡した。

2  責任原因

誠は、加害車の運行によつて生命を害されたが、加害車は、大西の知人が盗取した車両で、その保有者が事故につき被保険者とならないから、被告は自賠法七二条一項により、自賠法施行令で定める金額の限度で誠の受けた損害を填補する義務がある。

3  損害

(一) 損害金額

誠が本件交通事故に関して被つた損害金額は、死亡に至るまでの傷害による損害につき、八五万七二〇〇円、死亡による損害につき、一三〇六万九一二九円である。

(二) 相続

誠の相続人は妻である原告アサノ、子である原告勝彦、同佐二郎、同義信及び同正治の五名のみであつて他に相続人はいないから、原告らは誠の被告に対する損害填補金請求権を、その法定相続分(原告勝彦、同佐二郎、同義信、同正治は各六分の一ずつ、同アサノは三分の一であるから、原告勝彦、同佐二郎、同義信及び同正治については各二三二万一〇五四円、原告アサノについては四六四万二一〇九円となる。円未満切り捨て。以下同じ。)に従い、相続により取得した。

(三) 損害の填補

原告らは、本件事故に関し、被告から五六八万五八二九円、賠償責任者らから一二七万七三〇〇円の支払を受けたので、これを相続分と同じ割合(原告勝彦、同佐二郎、同義信及び同正治は各六分の一ずつ、同アサノは三分の一であるから、原告勝彦、同佐二郎、同義信及び同正治については各一一六万〇五二一円、原告アサノについては二三二万一〇四三円となる。)に分けたうえ、各損害に充当した。

4  よつて、原告勝彦、同佐二郎、同義信及び同正治は、被告に対し、右3の(二)の二三二万一〇五四円から同(三)の一一六万〇五二一円を差引いた残額一一六万〇五三三円及びこれに対する本訴状送達の日である昭和五七年一月二八日から右支払ずみまで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求め、原告東アサノは、被告に対し、右3の(二)の四六四万二一〇九円から同(三)の二三二万一〇四三円を差引いた残額二三二万一〇六六円及びこれに対する同日から右支払ずみまで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求める。

二  被告代理人は、請求の原因に対する答弁として、「請求の原因1ないし3記載の各事実は認める。」と述べ、抗弁として、次のとおり述べた。

本件交差点の南北道路は歩車道の区別のある道路で、車道部分の幅員が約九・一メートルであるのに対し、東西道路は幅員が約六メートルの歩車道の区別のない道路で、本件交差点における優先道路は南北道路であるところ、誠は足踏自転車を運転して本件交差点を東から西へ進行するにあたり、優先道路である南北道路を進行する車両に十分注意を払い、左右の安全を確認したうえで進行すべき注意義務を怠つた過失があるから、原告らの損害額の算定にあたつては、過失相殺がなされるべきである。

三  原告ら代理人は、右抗弁に対する答弁として、次のとおり述べた。

大西は、無免許であるにもかかわらず、後部荷台に友人を乗せ、時速九〇キロメートルの速度で加害車を運転して本件交差点に差し掛かつたが、その際、前方不注視の過失により東から西へ向けて進路前方の交差点の横断を開始した被害自転車を看過し、交差点手前約一七・六メートルの地点でようやく既に交差点中心付近を越えて進路前方を横断していた誠の運転する自転車に気付いたものの、運転操作が未熟であつたため、誠との衝突を避けることができなかつたもので、本件事故は大西の一方的過失によつて発生したものである。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生及び責任原因について

請求原因1及び2記載の事実は、いずれも当事者間に争いがないので、被告は、自賠法七二条一項により、自賠法施行令で定める金額の限度で誠の受けた損害を填補する義務がある。

二  損害について

請求原因3の(一)及び(二)記載の事実は、当事者間に争いがないので、原告勝彦、同佐二郎、同義信及び同正治は各二三二万一〇五四円、原告アサノは四六四万二一〇九円宛それぞれ誠の有していた被告に対する損害填補金請求権を相続により取得したものである。

三  過失相殺

1  前記一記載の争いのない事実に、成立に争いのない甲第一ないし第三号証、乙第一号証、第七ないし第一二号証、同第一六ないし第二八号証に弁論の全趣旨を併せ考えると、次の事実が認められる。

(一)  本件交差点は、いずれもアスフアルト舗装された、東西に通じる道路(以下「東西道路」という。)と、南北に通じる道路(以下「南北道路」という。)とがほぼ直角に交わる、交通整理の行われていない交差点であること、まず、東西道路は歩車道の区別のない幅員五・五ないし六・〇メートルの道路であり、一方、南北道路は、幅員約九メートルの車道と、その両側に設けられた幅員各約三・三メートルの歩道とから成り、車道部分は中央線によつて幅員各約四・五メートルの南北各行車線に区分されていること、本件交差点の南東角には建物が建つているため、南北道路を北進して交差点に至る場合、右方の見通しは悪いこと、東西道路、南北道路共に道路標識による最高速度の規制はなされていないこと、事故当時、南北道路を進行する自動車は加害車以外にはなく、また、付近路面は乾燥していたこと。

(二)  大西は、事故当時、八尾市立八尾中学校二年に在学していた少年(当時一四歳)で、もとより自動二輪車や原動機付自転車の運転免許を有していなかつたこと、加害車は、総排気量二五〇CCの自動二輪車(ホンダCB二五〇)で、同中学校三年に在学していた大西の友人佐藤有史が、昭和五五年一月九日に近鉄八尾駅付近の路上で盗取したものであり、同月一〇日から本件事故当日(同月一六日)までの間、大西は、放課後などに佐藤やその他の友人達と共に佐藤の親戚の経営する飲食店に集まつては、交代で加害車を乗り回して遊んでいたこと、事故当日、大西は、放課後、友人五名と共に右飲食店に集まつた後、加害車の後部荷台に友人天野滋を乗せて加害車を運転し、周辺道路を走行することとし、右飲食店を出発し、南北道路北行車線を時速九〇キロメートルの速度で北進して本件交差点の手前約四〇メートルの地点に差しかかつた際、右交差点を東から西に横断しようとして被害自転車に乗つた誠が、交差点の北側入口付近で停止しているのを認めたので、誠が自車に進路を譲つてくれるものと速断し、そのまま時速七〇キロメートルを超える速度で進行したこと、ところが、誠は、予期に反して交差点に進入、西進しはじめたため、大西は、本件交差点の手前約一五メートルの地点に至つたとき、誠がすでに交差点のほぼ中央まで進行しているのに驚き、まず、左へ、次いで右ヘハンドルを切つて衝突を回避しようとしたが及ばず、加害車前部を被害自転車の左側部(後輪フオーク部分等)に衝突させ、誠を進路前方に跳ね飛ばしたこと。

(三)  誠(明治四二年一二月八日生)は、八尾市内の福祉農園から、老人ホームに帰る途中、被害自転車(ミニサイクル)を運転して東西道路を西進し、本件交差点に進入したところ、前記(二)の状況下で加害車に衝突され、被害自転車もろとも北方へ跳ね飛ばされ、衝突地点の北方約一〇メートルの南北道路北行車線上に転倒したこと。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  以上認定した事実によると、本件交差点の南北道路の幅員は、東西道路の幅員よりも明らかに広いと認められるから、本件事件の発生については、被害自転車を運転して幅員の狭い東西道路を西進して本件交差点に至り、南北道路を東から西へ横断しようとした被害者である誠にも、南北道路を進行して来る車両の有無及び動静を十分確認することなく本件交差点に進入した過失があると推認される。他方、右認定事実によると、大西は、幅員の広い南北道路を北進して本件交差点に進入しようとしたものではあるが、交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両などにとくに注意し、できる限り安全な速度と方法で進行すべき義務(道路交通法三六条四項)を怠り、被害自転車を最初に認めた後も、その動静に十分注意を払わないまま、政令で定められた最高速度(時速五〇キロメートル)を大幅に上回る、時速七〇キロメートルを超える速度で加害車を進行させ、また、運転免許も持たず、運転技術も未熟であつたため、危険を感知した後も事故を回避するための有効な措置を措ることができずに本件事故を惹起したことが認められ、同人には重大な過失があるといわなければならない。したがつて、右に認定した双方の過失の内容、程度、双方の車種の違い、本件事故の態様のほか、先の認定に現われた諸般の事情を考慮すると、過失相殺として、原告らの損害の三割を滅ずるのが相当であると認められる。

そして、過失相殺の対象となる損害額は、前記二で認定したとおり、原告勝彦、同佐二郎、同義信及び同正治につき各二三二万一〇五四円、同アサノにつき四六四万二一〇九円であるから、これから三割を減じて原告らの損害額を算出すると、原告勝彦、同佐二郎、同義信、同正治につき一六二万四七三七円、同アサノにつき三二四万九四七六円となる。

四  損害の填補

原告らが、本件事故に関し、被告から五六八万五八二九円、賠償責任者らから一二七万七三〇〇円を受領し、原告勝彦、同佐二郎、同義信及び同正治はそれぞれ右合計額の六分の一である一一六万〇五二一円を、同アサノはその三分の一である二三二万一〇四三円をそれぞれ取得し、その損害に充当したことは当事者間に争いがない。

よつて、原告勝彦、同佐二郎、同義信及び同正治については、それぞれ前記三で認定した一六二万四七三七円から右填補分一一六万〇五二一円を差引いた残損金額は四六万四二一六円となり、同アサノについては、前記三で認定した三二四万九四七六円から右填補分二三二万一〇四三円を差引いた残損金額は九二万八四三三円となる。

なお、交通事故の被害者が自賠法七二条に基づいて政府に対してその受けた損害の填補を求める権利は、同条によつて新たに創設された請求権であり、民事上の損害賠償請求権とはその性質を異にするから、交通事故の被害者は、政府に対して遅延損害金を請求しえないものといわなければならない。

五  結論

以上のとおりであるから、交通事故による損害填補金として、被告は、原告勝彦、同佐二郎、同義信及び同正治に対し、各四六万四二一六円を、同アサノに対し、九二万八四三三円を支払う義務があるから、原告らの本訴請求は右の限度でそれぞれ理由があるのでその限度で正当としてこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないので失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 弓削孟 佐々木茂美 孝橋宏)

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